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浦和地方裁判所 昭和58年(タ)122号 判決 1984年11月27日

原告

甲野花子

右訴訟代理人

管野悦子

被告

甲野太郎

主文

一、原告と被告とを離婚する。

二、長男一郎(昭和五〇年六月一三日生)の親権者を原告と定める。

三、1 長男一郎は原告において監護養育するものと定める。

2 長男一郎の養育費中被告において負担すべき分は、離婚の日から同児が二〇歳に達するまで、月額六万円に六か月につき六万円を加えた額と定める。

3 被告は原告に対し、離婚の日から昭和七〇年六月一二日まで、毎月末日限り六万円(但し、離婚の月及び昭和七〇年六月は日割額)及び毎年六月及び一二月各末日限り六万円(但し、離婚の日の属する六ヵ月((一月から六月あるいは七月から一二月))及び昭和七〇年は日割額)の支払をせよ。

四、1 離婚に伴い、被告が原告に対し金四〇〇万円及び次の賃借権の財産分与をするものと定める。

賃借権

賃貸人被告・賃借人原告

対象 別紙物件目録記載の建物

期間 離婚の日から昭和七〇年六月一二日まで

但し、賃借人は賃貸人に三か月前に通知して解約することができる。

賃料 月額六万円、毎月末日当

月分払

賃貸借期間中増減額しない。

特約 被告は原告のため賃借権の不動産登記をすべきとする。

2 被告は原告に対し、四〇〇万円を支払い、かつ、前記賃借権の設定登記手続をせよ。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代理人は、主文一、二、五項同旨及び「被告は原告に対し、長男一郎の養育費として、判決言渡の月から同児が成人に達する月まで、月額六万円を、毎年六月及び一二月にはさらに六万円を加算した金額を毎月末日限り支払え。被告は原告に対し、財産分与として金四〇〇万円を支払うほか、別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)につき、期間・昭和五八年一二月一二日から昭和七〇年六月一三日まで、賃料・月額六万円・毎月二〇日当月分払、特約本賃貸借につき、被告は原告のため不動産登記をする。賃料は賃貸借期間中増額しない。原告は被告に三か月前に通知していつでも本賃貸借を解約することができるとの約定の賃借権を設定する。」との判決を求め、

被告は、主文第一、第二項同旨、長男一郎の養育費につき原告申立同旨、財産分与につき被告が原告に対し金四〇〇万円を支払うものとする旨の判決を求めた。

原告代理人は、請求原因その他の主張として、次のとおり述べた。

一  原被告は、昭和四九年一月一一日に婚姻した夫婦で、その間に長男一郎が昭和五〇年六月一三日に出生した。

原、被告は被告の勤務先のデパートに原告がアルバイトとして稼働して知り合い、三年半の交際後婚姻したものである。

二  被告は高校卒業後、デパートに就職し、現在に至つており、原告は音大卒業後ヤマハ音楽教室に勤務し、結婚後も両者は共働きを続け、長男が小学校に入学したのを機会に、原告は右音楽教室を退職し、自宅で音楽塾を開き現在に至つている。

三  ところで、被告は結婚当初より、あらゆるギャンブルに金銭を浪費し、大宮競輪、戸田競艇、浦和競馬と通う他、右開催日以外は連日マージャンで帰宅は深夜に及び、休日は朝からパチンコ店に通うという生活ぶりで、そのため給与は多額の天引きがあり、原告がその使途を尋ねても答えないばかりか、数年前からはサラ金及び銀行数社に数百万円の借金をするなどし、遂に三年程前からはギャンブルの資金と借金の返済に追われ、給与は被告自身で全て浪費し、生活費を入れないばかりか、心配して種々問いつめる原告に対し会話すら拒むような事態となつた。

四  原告は、従前から被告の家庭をかえりみず、会話を避け、長男にも愛情薄く、ひたすらギャンブルに溺れる生活態度と、長年に及ぶ経済的負担に不満を持ちつつも、長男の為にと離婚を思い止まつてきたものであつたが、昭和五七年秋、遂に夫婦話合いの末に協議離婚届を作成した。

原告は、被告が家を出て住居をみつけた後に右届書を提出する予定でいたところ、原告の留守中、被告が右届書を破り棄てるという事態に至り、原告はやむなく昭和五八年七月、浦和家庭裁判所宛離婚調停申立てをなしたが、同年一一月不調となつた。

五  右の次第で、原告は被告のギャンブルに溺れ、多額の借財をかかえながら、長年の原告の懇請も聞き入れず、生活態度を改めないばかりか、経済的にも一切生活費を入れず、原告の収入で生活している状態の被告に対し、全く愛情を失い、婚姻生活は完全に破綻しているので、原告は被告に対し、本訴により離婚を求め、婚姻以来夫婦で形成してきた財産の分与として金四〇〇万円の支払と申立にかかる賃借権の設定を求めるほか、長男一郎の親権者を原告とし、なお、原告は目下同児の生活費として毎月平均六万円(食費三万円、衣類五〇〇〇円、学校経費五〇〇〇円、塾、交通諸雑費二万五〇〇〇円)を支出するほか、毎年最低一回は北海道の祖父母方へ同児を旅行させており、その経費を併せ、必要とする年間養育費は八四万円を下らないので、申立にかかる養育費の支払を求める。

被告は、原告の申立にかかる離婚、親権者指定、養育費支払はいずれも相当であるが、財産分与は四〇〇万円の支払を相当とし、本件建物の賃借権の分与は不相当である。なお、被告の乙川勝(原告の父)に対する昭和五八年五月二五日現在の借受債務額は二〇〇万円であると述べた。

証拠関係<省略>

理由

<証拠>によれば、原被告が昭和四九年一月一一日婚姻した夫婦であつて、その間に長男一郎(昭和五〇年六月一三日生)が存することが明らかである。

<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができ<る。>

原被告間には、被告の後記行状等に帰因してかねてから対話が絶え、現在では、一つの建物に住むものの、共同生活を営むものではなく、相互に愛情を喪失してから長期間経過している。長男一郎は、原告の監護養育を受け、原告と生活をともにしているが、被告は同児に対しかねてから愛情を示していない。

原告は本件建物において音楽塾を営むもの、被告は百貨店従業員である。

被告は、かねてから競輪、競馬、競艇、麻雀、パチンコなどの賭事に耽り、昭和五三年以降は、給料の大半が天引され、そのうえ、いわゆるサラ金等から多額の借財をして散財する始末となつた。

一家の生計は、その頃以来、殆ど原告の収入により支えられ、被告の右借財で原告の返済したものも少額でない。

昭和五四年五、六月に被告の名義で本件建物及びその敷地である宅地115.22平方メートルが二一〇〇万円で取得され、以後一家で居住しているが、その資金は住宅金融公庫(約五九〇万円)、三井信託銀行(約八三〇万円)のローン借入(債務者被告)、原告の父の支出(二〇〇万円を下らない。)のほか、原被告の収入で支弁した。但し、右ローンの相当額は原告が返済している。本件建物の一階の大部分は、原告のピアノ教室として造られたもので、現に原告の収入の基礎として不可欠である。原告の父母はその後の貸付も含めて被告に対し三〇〇万円を下らない債権を有し、被告から本件建物及び右土地を売却して返済する旨の文書を徴しているが、本件建物等を原告が利用するならば、右債権の返済を求めない意を表している。被告は、離婚後本件建物を自ら利用する意思はない。右不動産を除いては、原被告にはさほどの資産はない。

以上の事実に基き判断する。

原被告の婚姻関係は、既に破綻して回復の見込なく、その原因は被告の責に帰すべきであるから、原告の本件離婚請求は理由がある。

長男一郎については、その現状に鑑み、親権者を原告と定め、原告において監護養育させることとし、養育費の額については、概ね原被告の一致した意見のとおり定めたうえ、被告にその支払を命ずることとする。

財産分与については、数年間にわたり原告の収入で概ね一家の生計を支えてきたこと等を考慮し、清算の意味で被告から原告に対し金四〇〇万円の支払を、また無責の原告の今後の生活のためには当分の間本件建物の利用を不可欠と認め、主文四1掲記の約定で賃借権の設定分与をさせるものと定め、被告に右金銭支払及び賃借権の登記手続を命ずることとする。

訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (高山晨)

物件目録<省略>

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